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とチェコでは月収1万コルナは高給取りの方らしい。とすると、あの聴衆は多分ごく一部の金持ちのチェコ人を除けば外国の観光客であったとしか思えない。もちろんどんな聴衆であっても、私たちの演奏姿勢が変わることはないし、かえっていろいろな国の人たちに(たぶん)同時に喜んでもらえたことは最後に嬉しいおみやげとなった。
ただ、東西解放後の変化に驚かされる面も多いが、まだまだ大変な生活を続けているであろうこの国の人たちに、私たちの演奏を聞いて少しでも楽しんでもらうことができたら、日本のオーケストラがプラハヘ行く意味がもっと深まったのではないかという気がしている(こういうことにこそ、世界に冠たるジャパン・マネーを使って欲しいと思うのは私だけではないだろう)。
日本のオーケストラの海外公演は、学ぶとか成果を持ち帰るだけではなく、与える(それが小さな楽しみであっても)ことをもっと意識すべき時代になってきているのではないだろうか。
今回の公演に際して、一般の方々から多大な募金をいただいた。多くの期待や応援を受けてヨーロッパに行けたことは、本当にありがたく幸福なことだと思う。他には見られないこれだけの支持を得られたことに誇りと責任を感じている。
そういう気持ちに支えられてこそ、懸命に演奏を続けてこれたのだ。
しかし3度にわたって毎回同じように一般の人々のサイフをあてにしなければ成り立たない公演であったことは、改めて考えるべき問題ではないかと思う。
いったいどこの国に、一般の人々のカンパで海外公演をするプロオーケストラがあるのだろう。日本の中ですら、今やそういうオーケストラは数えるほどしかない。この問題はヨーロッパ報告からははみ出してしまうので、これ以上ここでは触れないが、今後私たちが取り組まなければならない重要な課題であると思っている。
(高倉理実 コントラバス)

 

 

 

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